ある日の店内、ある若い男女の話が聞こえてきた。
「○○君って、バイト何してるの?」
「俺、居酒屋。」
「えー、そうなの?大変じゃない?」
「うん、まぁね。でも賄いつくし、旨いし。」
「そうなんだ。居酒屋って…まさかキャッチしたりしてるの?」
「まさか!うちの店はそれないから。」
「よかったねー。あれは嫌だよねー。」
「あれやるんなら、辞めてるよ。」
世の中は花金。しかも19時。人気店はかきいれ時で猫の手も借りたいくらい忙しいはずなのに、仙台の街にはキャッチが山ほどいる。
仙台のアーケード街を数えながら歩いてみた(国分町は数えきれないと思い断念)
1,2,3,4,5,6,7…数えるのが嫌になる。
ガムを噛みながら、煙草をふかしながら、声をかけた相手に断られ舌打ちをしながら、無駄な時間を過ごしている人が多くいることに驚きを隠せない。
この人たちは本当に「飲食店」の人なのか?
「飲食業」をほんの少しでも体感できているのか?
可愛そうで仕方ない。
「自分が所属するお店の良さを誰かに伝えたい!一人でも多くの人に知ってほしい!あなたを飲食で満足させたい!」そう思っていないことが態度でわかる。
本当にお店が好きなら、本当に飲食が好きなら、いますぐそのキャッチという行為をやめて、社長に直談判するべきだ。
「私は飲食業をしたくて入りました、キャッチするために入ったんじゃありません」と。
それで社長にとやかく言われたら、受け皿はいくらでもある。
すぐに辞めて、キャッチをしなくていい人気店に、どうか入ってきてほしい。
キャッチができるくらいの度胸の持ち主ならすぐにフロアに立たせることができるし、
望むならキッチンに入って料理のサポートをしながら勉強することだってできる。
正しく飲食を好きになってもらえたら、飲食の間口は広い。独立だって当然できる。
そこから繁盛店になるかならないかは自分次第ではあるけれど、いまキャッチをやっている人生よりははるかに飲食業界になくてはならない人として重宝されるだろう。
かくいう私もキャッチをしたことがある。
それは自分がやりたくてやった行為だった。
「いま携わっているお店のことを、いまお店の目の前を歩く人に知ってほしい!このお店を知って、いつか思い出して来てほしい!絶対に喜んでくれるはずだ!」
そう信じた結果の行為だった。
街にあふれるキャッチとは、一緒にしないでほしいと心から思う。
きっと、その時の私と同じ気持ちでキャッチをしている人もいるだろう。
それはそれで自信をもっていい行為だと思う。
見ればすぐわかる。立ち振る舞いが全く違うから。
お店の看板を背負っていることを自負しているから、頭の先からつま先まで、責任感と幸福感で満たされている。
飲食店は現在、人手不足だと言われている。
ではなぜ、金曜日の19時に、接客をしているはずの人たちが街にあふれているのか。
その人たちに飲食業をする能力がないから?
その人たちがキャッチを自らしたいと言っているから?
答えはひとつ。
その人たちが入った会社がそういう会社だったから、だ。
キャッチが街にあふれているのは、そういう会社が仙台に多いということ。
「お店への集客手法」として彼らを扱っているだけで、
「お店を知ってもらう手法」「お店を愛してもらう手法」とはほど遠いことを知らない。
本来ならば、いまお店に来てくださっているお客様にどう接するのか、お客様への「来てくれてありがとう」をどう伝えるのか、お客様がお帰りになるときどう帰っていただくか、を真剣に考えて表現できるはずの業界なのに、それが重要だということに気づいていない会社が多いということだ。
もちろん待っているだけでは新規客は来ないのだけれど、
キャッチして入ってきたお客様にどれだけの対応ができるのか。
その対応ができていないから、毎日毎日キャッチをしないとお店が埋まらない、悪循環を繰り返しているのではないか。
一番かわいそうなのは、飲食でお客様を喜ばせたくて入ったはずなのにキャッチをしなくてはならなくなったその人たちだ。飲食業を好きになる芽を、飲食企業がつぶしてしまっている。これでは飲食業界の価値は上がらないし「将来なりたい職業1位は、飲食業」と言われる日など来るはずがない。
さて。
最後に、私が衝撃を受けた金曜19時のキャッチの人数ですが…
アーケード街を一回歩いてすれ違っただけの人数で、なんと98人!!
馬鹿げていると思いませんか。
本当に飲食業は人手不足ですか。
キャッチの人たちに名刺を渡して、本当に飲食業に携わりたい人をリスト化して
人手不足の人気店に紹介してみたら、案外この人手不足は解決するのではないだろうか…。
キャッチをさせている企業の社長さんに怒られてしまうでしょうか?
2015.06.08