「『飲食業』は『仕事』として捉えています。」そう話すのは、今回の店のコンセプトを決定した梁田亮輔氏。店の共同経営者として、調理場やホールに立ち現場を盛り上げつつ、生産者と店をつなぐ「生産者コーディネーター」として活躍している。
「『好き』という気持ちだけで飲食業は務まらないと思っています。そういう人たちがいるのはもちろんわかっているし、素晴らしいことだと思います。でも自分たちは違うんです。実は自分たちは10代のころキャッチをしていて、それがいいことか何を意味するのかも考えず、ただそういうものだと思って従ってきました。バイトで入ったので、上から言われたら、ハイわかりました、という感じで、外に出て行って最初こそ真剣にキャッチしようとしていましたけど、慣れてきたら15分も持たずに遊びに行ったりして。ごまかすことだけうまくなっていったというか。で、キャッチをしなくてもいい立場になったら今度はほぼ無休で店長の代わりにひたすら働く日々が待っていたりして。店の売上はうなぎ上りなのに、働いても働いても給料は上がらないし、どんどん疲弊していく。いったい俺は何やってるんだろう、と。」若き日の梁田氏の生活を聞くと飲食業を嫌いになってしまいそうな気がするがそのころからすでに「独立して、売上を正当に振り分けられることができたら、この場にいるスタッフはどんなにやりがいを持てるだろう」と考えていた。そして「その時に必要なメンバーはだれだろう」と思いを巡らせるようになったという。
不思議だった。なぜこんなに飲食業はブラックなのか。なぜブラックと言われているのに新しく店ができるのか。なぜつぶれていく店があるのか。継続している店とつぶれる店との違いは何なのか。19歳から飲食業界で働いているのに、何もわからなかった。
梁田氏は24歳のとき、いったん飲食業から離れている。それは飲食業界を外から見てみたかったのと、現在のコンセプトである東北6県の食、特に地域に根差したB級グルメを学ぶための時間だった。
その後は物件探しに苦労し、自分たちが求めるような大きさの物件はどこにも見つけられず2年が経過する。一緒にやろうと決めた4人のメンバーの熱も2年が過ぎると当初のようではなくなっていった。当然自分たちの生活がかかっているため、夢物語ばかりを追ってはいられない。結束が強いうちにスタートさせるには限界に来ていた。そんな中、共同経営者である村山氏の前職場(70坪)、が急に物件として上がってきた。「基本的に『箱』は二の次だと思っていたんです。良いに越したことはないけど、立地とか内装とかは究極、関係ない。『誰とやるか』が自分たちにとっては一番大事だったんです。」そう話す梁田氏でも今回のこの物件の広さに悩まなかったわけではないが、前に進むために思い切って腹をくくった。
場所は、一番町スマイルホテルの地下。場所がら夜遅くまで営業はできないので15時からのオープンで、ゆったりと楽しんでいただける環境を心掛けている。コンセプトは以前から決めていた「東北6県のお酒とB級グルメを楽しめるお店」。仙台は東北の中心地。あらゆる土地から観光客が来るし、支社が多いので出張族も多い。とはいえ、東北6県の各県にそれぞれ出向く人は少ないし、交通が便利になったことで日帰りが増え、その土地土地の美味しい料理を食べずに帰っていくことも多い。食材の宝庫と呼ばれている東北なのに、その自慢の料理を食べずに帰ってしまってはもったいない、と感じていた。各県におすすめメニューはあるが、特に一押しは青森の『青森産にんにく揚げ 480円(税抜)』農業高校時代の友人が営む畑で種まきから刈取りまでを手伝わせてもらって作った、自家製にんにくを使用している。岩手は『小岩井ジンギスカン炒め 680円(税抜)』秋田は『きりたんぽ揚げ出し 680円(税抜)』山形は『米沢牛の肉汁バーンッ!メンチカツ 780円(税抜)』福島は『円盤餃子 580円(税抜)』宮城は『仙台せりと磯の香りの米粉温麺 880円(税抜)』等々、各県の自慢の料理が数えきれないほどメニュー表を埋め尽くしている。各県1ページずつに加え、県別の鍋自慢、その時々のフェア等々。料理で人を楽しませたい、という気持ちがメニューブックからひしひしと伝わってくる。ドリンクは、東北6県の日本酒が常時50種以上ラインナップ。珍しい生原酒(隠し酒)、焼酎、ワイン等も含めると60種は超している。その時々の気分に合わせて、また、一緒に飲む仲間の出身地に合わせてメニューもお酒も選択できるところがこのお店のいいところだ。
たった5年という期間限定で店を出すことに梁田氏は「期限があるから頑張れる、ということもあると思うんです。今自分達がやっていることが正しいかどうか判断するために、全員経営として区切りをつけるためにそうしています。5年後、このまま突き進もう、となったらそれはそれでやっていくこともあると思うし、逆に、このスタイル(コンセプトや社員制度)が間違っていたとなれば軌道修正せざるを得ません。みんなが同列の立場で意見を言える環境をつくるためにそうしているので、この先のことは自分たちでも楽しみですし、期待をもって進んでいます。」と捉えている。
全員経営、という新しい形の飲食店。東北6県を発信しようという志。若手メンバーが切磋琢磨し進む先に何が見えてくるのか。楽しみで仕方がない。
(取材=澤田てい子)
店舗データ
店名 | 東北ろっけん応援酒Bar むっしゅ |
---|---|
住所 | 宮城県仙台市青葉区一番町4-3-22 一番町センタービルB1(スマイルホテル地下) |
アクセス | 仙台市営地下鉄南北線 広瀬通駅 西5番出口 徒歩3分 仙台市営地下鉄南北線 勾当台公園駅 南3番出口 徒歩5分 仙台市営地下鉄東西線 青葉通一番町駅 北1番出口 徒歩8分 |
電話 | 022‐738‐8717 |
営業時間 | 15:00-0:00 (イベント等ご利用の際は要予約で何時からでも承ります!) |
定休日 | 不定休 (ほぼ無休) |
坪数客数 | 70坪80席 |
客単価 | 3,000円 |