オーナーの渡邊氏が独立したのは32歳の時だった。飲食業を生業にした時から独立することは決めていた。漠然とした目標が決意に変わったのは2011年、あの震災の時だった。当時勤務していた店舗で炊き出しをしていたときのあるお客様からの一言が胸を打った。「半世紀生きてきたけど、1番美味しかった。ありがとう。みなさんにもそう伝えてほしい。」炊き出しをしたくてもできない歯がゆい思いをしている飲食仲間がいる中で、自分がそれをできていることのありがたみを感じるとともに、いざという局面に来た時に、自分で采配を振ることができる立場にいたいという思いが強くなった。
独立して最初にオープンした店は青葉通り沿いにある地下の店だった。当初はキッチンを料理人に任せ東北の食材の知識を情報としてお客様に伝えていくホールの仕事が楽しかったが、人材不足で自分がほとんどキッチンにいる営業となり、お客様と話せる環境ではなくなってしまった。これでは自分が目指す、お客様との距離が近い店には程遠くなってしまうこと、人材不足に悩まず自分ひとりでも営業できる店にしたいという思いから、テーブルメインの地下の店からカウンターと2階に小さなテーブルが置けそうな壱弐参横丁の店に移転を決意した。建物の老朽化により2階席はいまだ運用できる形にはいたっていないが、2017年2月9日、心機一転リニューアルオープンを果たした。
東北の食材をお客様にもっと知ってほしい、その食材をつかった料理の工程にも興味をもってほしいという思いから、カウンターに仕切りはつけず手元がはっきり見えるようにデザイナーにお願いをした。盛り付けの際の湯気や香りや音が五感を刺激するようなカウンター。地元の食材へのリスペクトと、自らの料理人としての魅せる仕事が両立するライブ感あふれる場「フレッシュライブカウンター」を自らのステージと見立てて、日々お客様を楽しませている。
メニューはほとんどがその日仕入れたばかりの地の食材。野菜も魚も肉も、新鮮なものを使い、できるだけシンプルに素材を生かした料理を提供したいと考えている。「野菜の炭火焼(1種200円~税抜)」や「魚貝のカルパッチョ(600円~税抜)」も1人前から盛り合わせができ、たくさんの種類を少しずつ楽しめるようになっている。数量限定の「1人前ラザニア(750円~税抜)」は来るたび必ず頼む人がいるほどの人気でなくなってしまうことも多い。アクアパッツァやカポナータのような南イタリアに代表される料理も前菜として取り揃えてある。ドリンクは、「ビール(500円税抜)」「スパークリング(グラス700円~税抜)」「ワイン赤・白(グラス500円~税抜)」等、お料理やその日の気分、好みに合わせて選んでくれる。
2月にリニューアルオープンしたばかりの渡邊氏ではあるが、視野の中には2店舗目を展開することも検討している。それは、飲食人の使命として業界の後継者を作り続けなくてはならないという想いからだ。自らもたくさんの人に支えられたくさんの経験を積むチャンスをもらいここにいることから、次は自分がそういった後輩を育てる立場になっていきたいという。
渡邊氏の飲食人第2章は始まったばかり。壱弐参横丁にできた新生『炭火焼と南イタリア料理 ヴァカンツェ』がこれから東北の食材の発信基地となるか、お客様に料理の楽しさを伝え飲食の面白さを理解してもらえる場所となるか、これからが勝負だ。
(取材=澤田てい子)